- 2026年02月06日
法定福利費とは?積算での考え方と計算イメージを初心者向けに解説

建設業の見積もりを作成する上で、法定福利費は欠かせない項目です。
これは、法律で定められた社会保険料の会社負担分を指し、適正な工事価格を算出するために重要な要素となります。
この記事では、積算初心者の方に向けて、法定福利費の基本的な考え方から、見積もりにおける具体的な計算方法のイメージ、なぜ計上が必要なのかという背景までを分かりやすく解説します。
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法定福利費とは?積算で出てくる理由をやさしく解説
法定福利費は、従業員を雇用する事業主が法律に基づき負担する費用のことです。具体的には社会保険料の事業主負担分を指します。
建設業界では、労働者の適切な労働環境を確保するため、見積書にこの費用を明示することが求められています。
ここでは、法定福利費の基本的な定義や、なぜ積算業務で重要視されるのかについて、その理由を解説します。
法定福利費とは何を指す費用なのか
法定福利費とは、企業が従業員のために負担することが法律で義務付けられている費用の総称です。具体的には、健康保険料、介護保険料(40歳以上の場合)、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金、雇用保険料、労災保険料の6種類における事業主負担分を指します。
これらは従業員の給与から天引きされる本人負担分とは別に、会社が支払うものです。
通勤手当や住宅手当といった、企業が任意で提供する「福利厚生費」とは明確に区別されます。
給与や労務費とは何が違うのか
給与は従業員の労働に対する直接的な対価として支払われるもので、一般的に「賃金」と同義で使われます。一方、労務費は積算の際に使われる用語で、工事に直接従事する作業員の賃金や手当などを指します。
法定福利費は、この労務費(賃金)を支払う際に、付随して発生する会社負担の社会保険料のことです。
つまり、従業員に直接渡されるお金が給与(賃金)であり、労務費は製品やサービスの提供にかかわる従業員の賃金や手当などを指す会計上の費用項目です。その労務費の内訳には賃金や賞与、そして法定福利費も含まれます。法定福利費は、法律で義務付けられた会社負担の社会保険料等のことで、労務費(賃金)を元に計算され、会社が別途国や保険組合に納める費用という関係になります。
なぜ積算や見積で法定福利費が出てくるのか
建設業界で積算や見積もりに法定福利費が明記されるようになった背景には、国土交通省による社会保険未加入対策の強化があります。かつては法定福利費を工事価格に含めず、下請け業者にしわ寄せがいくケースが少なくありませんでした。
そこで、労働者の雇用環境を守り、公正な競争を促進するため、平成25年頃から法定福利費を見積書に内訳として明示する「標準見積書」の活用が推進されています。
これにより、必要な費用が確保され、企業の健全な経営にもつながります。
なぜ積算に法定福利費を入れないといけないのか?
法定福利費を積算に計上することは、法律上の義務を果たすだけでなく、自社の利益を守るためにも不可欠です。もしこの費用を見積もりから除外してしまうと、本来発注者から受け取るべきコストを自社で負担することになり、赤字工事の原因になりかねません。
ここでは、法定福利費を積算に含めるべき具体的な理由と、元請けや発注者がこの項目を重視する背景について解説します。
労務費だけでは実際の人件費にならない理由
企業が従業員を一人雇用する際にかかる人件費は、給与として支払う労務費だけではありません。労務費に加えて、会社が負担すべき社会保険料、つまり法定福利費が必ず発生します。
例えば、月給30万円の従業員を雇用する場合、会社は給与の30万円とは別に、約4〜5万円の法定福利費を負担する必要があります。
この費用を見積もりに計上しなければ、会社は本来得られるはずの利益を失い、人件費を正確に原価として管理することができなくなってしまいます。
元請・発注者が法定福利費を重視する背景
元請企業や発注者には、建設業法に基づき、下請企業が適切に社会保険に加入しているかを確認する努力義務があります。社会保険未加入企業を現場から排除し、業界全体の労働環境を改善しようという動きが背景にあるためです。
特に雇用保険は65歳以上の労働者も加入対象となるなど、法令遵守が厳しく求められます。
見積書に法定福利費が明記されていない場合、社会保険に未加入である可能性を疑われ、受注の機会を失うことにもつながりかねません。
法定福利費を入れていないと起こりやすいこと
法定福利費を計上していない見積書を提出すると、まず元請や発注者から内容の確認や再提出を求められる可能性が高まります。コンプライアンスを重視する企業ほど、法定福利費が明記されていない見積もりを受け付けない傾向にあります。
また、万が一そのまま契約してしまった場合、本来請求できるはずの費用を自社で負担することになり、赤字のリスクを負うことになります。
企業の法令遵守意識が低いと見なされ、長期的な信頼関係の構築が難しくなることも考えられます。
積算における「労務費」と「法定福利費」の違い
積算業務を行う上で、労務費と法定福利費は密接に関連していますが、その性質は異なります。労務費が工事の実行にかかる直接的な人件費であるのに対し、法定福利費はその労務費を基に算出される間接的なコストです。
この二つを明確に区別して考えることは、正確な見積もりを作成し、企業の利益を確保するために非常に重要です。
ここでは、それぞれの積算上の考え方について解説します。
労務費とは何か(積算上の考え方)
積算における労務費とは、工事を施工するために直接必要となる職人や作業員の賃金、給与、諸手当などを指します。これは工事原価を構成する「直接工事費」の一部であり、工事の規模や内容に応じて変動します。
具体的な算出方法としては、各作業員の単価(日当など)に、その工事で必要となる延べ作業日数(人工)を掛けて計算するのが一般的です。
この労務費の総額が、後述する法定福利費を計算するための基礎となる金額になります。
法定福利費とは何か(積算上の考え方)
積算上の法定福利費は、算出した労務費の総額に対して、定められた保険料率を乗じて計算される費用のことです。これは労務費とは別に扱われ、労務費に上乗せされる形で計上されます。
つまり、直接的な人件費である労務費に、事業主負担分の社会保険料を加算することで、実際にかかる人件費の総額を見積もりに反映させる役割を持ちます。
この費用は、工事原価の中では「現場管理費」や「共通仮設費」の一部として扱われることが一般的です。
なぜ労務費と法定福利費は分けて考えるのか
労務費と法定福利費を分けて考える最大の理由は、見積もりの透明性を確保するためです。国土交通省が推奨する「標準見積書」では、法定福利費を内訳として明示することが求められています。
これにより、発注者は下請企業が必要な保険料を適正に価格転嫁しているかを確認でき、健全な取引関係が構築されます。
また、労務費は現場の作業量によって変動しますが、法定福利費の料率は法律や制度によって定められており、変動要因が異なります。
両者を分けることで、それぞれのコストの根拠が明確になります。
法定福利費は積算書・見積書でどう扱われる?
法定福利費を積算した後、実際に見積書へどのように記載するかにはいくつかの方法があります。現在、建設業界では、国土交通省の指導により、法定福利費を別途項目として明記する形式が推奨されています。
これは、特に公共工事や大手企業が関わる建築プロジェクトにおいて、適正な費用計上を確認するために重要視される点です。
ここでは、見積書での主な扱われ方について解説します。
法定福利費を別項目で計上するケース
現在最も推奨されている方法が、見積書の内訳に「法定福利費」という独立した項目を設けて計上するケースです。これは国土交通省が作成した「標準見積書」の形式に沿ったもので、発注者に対して、法律で定められた費用を適正に計上していることを明確に示せます。
この方法を用いることで、見積もりの透明性が高まり、元請企業からの信頼を得やすくなります。
特に公共工事やコンプライアンスを重視する企業との取引では、この形式での提出が求められることがほとんどです。
労務費に含めて計上するケース
従来の方法として、法定福利費を独立させず、労務費や現場管理費といった他の費目の中に含めて計上するケースもあります。この場合、見積書を一見しただけでは法定福利費がいくら含まれているのかが分かりません。
そのため、発注者から内訳の説明を求められたり、社会保険への加入を疑われたりする可能性があります。
業界全体で法定福利費の内訳明示が進む現在では、トラブルを避けるためにも、この方法は可能な限り避けるべきとされています。
「法定福利費は◯%で」と言われる理由
元請企業から「法定福利費は労務費の〇%で計算してください」といったように、具体的な率を指定されることがあります。これは、個々の下請企業の正確な保険料率を元請が把握できないため、業界標準の概算率や自社の積算基準に沿って計算を統一しようとする意図があります。
これにより、複数の下請けからの見積もりを比較しやすくなります。
ただし、この率はあくまで積算上の目安であり、自社の実際の負担率とは異なる場合があるため、その点を理解しておく必要があります。
法定福利費の計算方法イメージをつかもう
法定福利費の計算は、一見すると複雑に思えるかもしれません。しかし、基本的な考え方は「労務費に一定の割合を掛ける」というシンプルなものです。
積算の段階では、1円単位の正確さよりも、なぜその費用が必要で、どのような考え方で算出されるのかを理解することが重要です。
ここでは、初心者の方でも法定福利費の計算イメージをつかめるよう、基本的な考え方を解説します。
法定福利費は「労務費×一定割合」で考える
法定福利費を計算する最も基本的な方法は、「法定福利費=労務費の総額×法定福利費の料率」という式で算出することです。ここで言う「労務費の総額」とは、積算によって計算された、その工事に従事する作業員の賃金合計額を指します。
「法定福利費の料率」は、健康保険や厚生年金保険などの事業主負担分の保険料率を合計したものです。
この料率は、概ね16%前後が目安とされますが、正確な率は加入している保険や業種によって異なります。
実際の率はなぜ現場や会社で違うのか
法定福利費の料率が会社や現場によって一律でないのには理由があります。まず、健康保険料率は加入している健康保険組合(協会けんぽ、建設国保など)や、協会けんぽの場合は都道府県ごとに異なります。
また、労災保険料率は、建設業の中でも土木事業や建築事業といった事業の種類によって細かく定められています。
さらに、従業員の年齢構成(40歳以上は介護保険料の負担がある)によっても変動するため、各社の実態に合わせた料率を適用する必要があります。
積算段階では“正確さ”より“考え方”が大切
見積もりを作成する積算の段階では、法定福利費を1円単位まで正確に計算することに固執する必要はありません。それよりも「人件費には労務費の他に法定福利費というコストが必ずかかる」という考え方を理解し、見積もりに反映させることが重要です。
法定福利費を0円で見積もることは、必要なコストを計上していないと見なされ、発注者からの信頼を失いかねません。
まずは業界で一般的に使われる概算の料率を用いてでも費用を計上し、その根拠を説明できるようにしておくことが大切です。
法定福利費を含めた積算管理をラクにしたいなら
法定福利費の考え方が分かっても、実際の積算業務では、その算出方法について「根拠の説明が毎回大変」と感じる方も多いのではないでしょうか。積算から見積、工事ごとの原価管理までを一元的に管理できる「要 ~KANAME~」なら、法定福利費を含めた人件費の考え方も整理しやすく、属人化しがちな積算業務を仕組みで支えることができます。
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法定福利費を積算に入れないとどうなる?
法定福利費を意図的に、あるいは知識不足から積算に含めなかった場合、さまざまな不利益を被る可能性があります。単に自社の利益が減少するだけでなく、元請けや発注者からの信頼を失い、今後の受注活動にも悪影響を及ぼしかねません。
ここでは、法定福利費を計上しなかった場合に起こりうる具体的な問題点について、いくつかの視点から解説します。
見積チェックで指摘されやすいポイント
元請企業や発注者が見積書を精査する際、法定福利費の項目は特に厳しくチェックされます。法定福利費が計上されていない、あるいはその金額が労務費に対して著しく低い場合、ほぼ間違いなく指摘の対象となります。
具体的には、「法定福利費の算出根拠を提示してください」といった説明を求められたり、見積書の再提出を要求されたりします。
コンプライアンスを重視する企業との取引では、この項目が適正でないという理由だけで、受注候補から外されることもあります。
後から修正・説明が必要になるケース
見積もりに法定福利費を計上しないまま契約に至ってしまうと、後からその費用を追加で請求することは極めて困難です。結果として、本来は発注者が負担すべきコストを自社で被ることになり、工事の利益率を大きく圧迫します。
また、受注後に発注者から社会保険の加入状況や法定福利費の扱いについて問われた際、明確な説明ができないと、ずさんな管理体制であると見なされてしまいます。
このような事態は、その後の取引関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。
積算の信頼性にどう影響するのか
法定福利費を適切に積算し、見積書に明記することは、単なるコスト計算以上の意味を持ちます。それは、企業が法律を遵守し、従業員の福祉に配慮している健全な経営体質であることの証明となるからです。
逆に、法定福利費が計上されていない見積書は、積算の精度が低いだけでなく、企業のコンプライアンス意識の欠如を示唆します。
これにより、取引先としての信頼性を根本から損ない、長期的な事業展開において大きなマイナス要因となり得ます。
まとめ|法定福利費は積算の「考え方」を押さえれば怖くない
法定福利費は建設業の積算において非常に重要な項目ですが、その本質は決して複雑なものではありません。重要なのは、細かな計算方法を暗記することではなく、「なぜ必要なのか」「どういう考え方で算出されるのか」という基本を理解することです。
この考え方さえ押さえておけば、初心者であっても自信を持って積算業務に取り組むことができます。
最後に、法定福利費を扱う上での心構えをまとめます。
法定福利費の意味と役割を理解することが第一歩
法定福利費は、法律で定められた会社負担の社会保険料であり、従業員の生活保障に欠かせない重要なコストです。この費用を適正に見積もりに計上することは、自社の利益を守るだけでなく、建設業界で働く人々の労働環境を支え、業界全体の健全化に貢献するという大きな役割を担っています。
単なる数字として処理するのではなく、その背景にある意味を理解することが、適切な積算を行うための第一歩です。
この意識を持つことで、見積書に説得力が生まれます。
完璧に計算できなくても積算はできる
積算を始めたばかりの段階で、都道府県ごとや保険組合ごとに異なる料率をすべて把握し、完璧に法定福利費を算出するのは困難です。しかし、実務上はそこまで厳密な計算が求められるわけではありません。
まずは、業界の目安とされる料率(例えば労務費の約16.5%など)を用いて、法定福利費というコストを見積もりに計上する習慣をつけることが重要です。
完璧を目指すあまり何も計上しないより、概算でも計上する方が遥かに良いと覚えておきましょう。
法定福利費を理解すると見積の精度が上がる
法定福利費の考え方を理解し、正しく積算に組み込めるようになると、人件費という最も大きなコスト要素を正確に把握できるようになります。これにより、いわゆる「どんぶり勘定」から脱却し、一つ一つの費用項目に根拠のある、精度の高い見積もりを作成することが可能になります。
適正な利益を確保し、不当な価格競争から自社を守るためにも、法定福利費の理解は不可欠です。
結果的に、企業の経営基盤を安定させる力になります。
法定福利費積算でよくある質問(Q&A)
Q1. 法定福利費は見積書で必ず「別項目」で計上しないといけませんか?
A. 必ずしも強制ではありませんが、現在は「法定福利費」を別項目で明記する形式が推奨されています。労務費に含めてしまうと内訳が分かりにくく、発注者・元請から算出根拠を求められたり、社会保険加入状況を疑われたりするリスクがあります。
Q2. 法定福利費は何を基準に計算しますか?(どの金額に掛ける?)
A. 基本は 「法定福利費=労務費(賃金)の合計×料率」 という考え方です。積算で算出した工事の労務費総額を基礎に、事業主負担分の社会保険料率を乗じて計算します。
Q3. 元請から「法定福利費は労務費の〇%で」と指定された場合は従うべきですか?
A. 多くの現場で起こり得ます。元請側は下請ごとの正確な保険料率を把握しにくいため、概算率や自社基準で計算を統一して比較しやすくする目的があります。指定率は「目安」であることも多いので、必要に応じて自社実態との差を理解した上で対応すると安心です。
Q4. 法定福利費の料率が会社や現場で違うのはなぜですか?
A. 健康保険は加入先(協会けんぽ/健保組合など)や地域で率が異なり、労災保険は業種区分で率が変わります。さらに介護保険の対象(40歳以上)など、従業員構成でも差が出るため、一律になりにくいのが理由です。
Q5. 積算段階で、法定福利費を1円単位で正確に計算できないとダメですか?
A. 積算段階では、1円単位の厳密さよりも **「法定福利費というコストを適切に計上する」**ことが重要です。まずは一般的な目安の率で概算計上し、根拠(労務費に一定割合を掛けている)を説明できる状態にしておくと、見積チェックでも対応しやすくなります。
Q6. 法定福利費を見積に入れないと、具体的に何が起こりますか?
A. 見積チェックで指摘され、根拠提示や再提出を求められる可能性が高まります。さらに、そのまま契約すると本来請求できた費用を自社負担することになり、利益率の悪化や赤字につながりかねません。結果として信頼性にも影響します。





