- 2025年12月01日
建設業のコストの管理方法とは?ムダを視える化して利益を守る実践手法を解説
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建設業において、工事原価管理は利益を守るための最重要テーマです。しかし、複雑な原価計算や大量の入力作業を伴う原価管理には、多くの課題が伴います。建設業界は、資材価格の高騰や労務費の上昇といったさまざまなリスクに晒されており、競争力を維持し事業を成長させるためには、原価管理システムの活用による費用削減と利益向上が鍵となります。
この記事では、建設業者がコストを最適化し利益を改善する方法について解説します。
コンテンツ
建設業でコスト管理が難しい理由
建設業の工事原価管理は、他業種と異なり複雑な管理が求められ、以下のような難しさが背景に存在します。原価構造の複雑さ
建設業の原価管理は、工事ごとに材料費、労務費、外注費、経費など原価の構成要素が異なり、複雑かつ流動的であるため、綿密な管理体制が求められます。建設プロジェクトの工事原価計算は、多岐にわたる要素を考慮する必要があるため、非常に複雑な構造をしています。建設業における原価は、一般的な会計で構成される材料費、労務費、経費の3要素に加えて、外注費を含む4つの要素で構成されます。さらに、工事費用の構成自体も煩雑です。例えば、「公共建築工事積算基準」では、工事は直接工事費、共通費、消費税等相当額の3つで区分されています。共通費の中には、原価に含まれるものとそうでないものがあり、例えば現場作業者や施工管理者の人件費は原価に含まれますが、営業担当者や営業事務は工事原価ではなく本社経費となります。この複雑さが、正確なコスト管理の大きな障壁となっています。
変更・追加の多さ
建設業における工事期間は長期に渡るケースがあり、その間に資材価格の変動や工程の遅延などが原価に影響を及ぼす可能性があります。特に近年は資材や労務費の高騰が続いており、工事を受注する時点の見積りでは想定しきれないことが多く、工事が進むにつれてコストが膨らんでしまうことがあります。予期せぬ事態が原価に大きな影響を与えるリスクに対応するためには、原価管理のデータを活用することが有効です。このため、「最初の見積りで全てカバーする」ことは難しく、見積り有効期限や価格改定条項を契約に明記したり、工程管理を徹底して遅延の兆候を早期に発見することで、追加費用の発生を防ぐことが重要です。
管理方法の属人化
工事原価管理の基礎となるデータは、多くの場合、各現場の責任者から経理部門の担当者へと共有されます。しかし、各現場でエクセルなどで原価管理をしてしまうと、経理がデータを集約し、完成工事原価報告書を作成する際に、ヒューマンエラーを起こす可能性を高めてしまいます。また、経理部門では、現場ごとに違うフォーマットの基礎データを集約し、配賦(はいふ)作業をすべて手作業で行う必要があり、この複雑で膨大な配賦作業は経理業務担当者にとって大きな負担となります。属人化は、管理手法のバラつきや実績データの不整合につながり、業務の標準化を進めることが求められます。複数現場の把握困難
建設会社は、各工事現場の利益の積み上げが会社全体の利益を決めるため、各現場のコスト管理は非常に重要です。しかし、複数の現場を同時に抱える建設業において、現場からのデータ収集の難しさや、情報共有の不足は、コストを正しく把握できていないという悩みに繋がります。経理担当者が手作業で複数の現場のデータを集約する現状では、工事ごとの粗利や原価が把握しづらく、リアルタイムな原価情報に基づく意思決定が困難になります。クラウド型の原価管理システムを導入することで、複数現場のデータを一元管理できる環境を構築し、業務効率を大幅に向上させた事例も存在します。
コスト管理の基本ステップ
建設業のコスト管理の方法は、「見積りの仮説」を「実績の数字」で検証し、素早く打ち手に変える一連のプロセスです。コスト管理の基本ステップについて解説します。見積り段階での原価把握
コスト管理のファーストステップは、見積り段階での原価把握です。工事を受注する際、材料費・労務費・外注費などを積算して見積り原価を作成します。精度の高い実行予算書を作成するためには、見積り段階での歩掛による積算から始まり、現場条件や工法の難易度などから検討した精度の高い実行予算書が求められます。似た業務の原価データを分析することで、新規工事の見積りの精度を高めることが可能です。また、積算見積り業務に専用ツールを用いることで、無駄な時間をかけずに正確な作業を進めることができます。例えば、プラスバイプラスが提供するplusCADシリーズには、材料の拾い出しから見積書が自動で完成する機能があります。
実行予算の策定
次に、見積り原価をもとに、工事完了までに必要となる費用をさらに精査し、実行予算として設定します。建設業では、工事を受注すると、粗利益目標額を設定した「工事実行予算書」を作成します。この実行予算書は、費用金額入りの施工計画書といえるものであり、工事における利益の最大化を常時見込むうえで、予算と実績を比較するための基準となります。実行予算書の作成・承認責任者は工事現場の作業所長であるケースが多いですが、実際の作成は現場所長を中心としたチームで行われるのが一般的です。
日々の実績収集
実行予算策定後は、工事の進行にあわせて、発生した費用を工事原価台帳などに記録します。これが日々の実績収集です。原価管理システムは、建設プロジェクトにおける材料費、労務費、外注費などの原価情報を収集、分析、管理するためのシステムです。システムによるデータの一元管理は、リアルタイムな原価情報に基づく意思決定を可能にします。日々の実績収集を正確に行い、工事の進捗状況をリアルタイムで管理することで、予算オーバーを未然に防ぐことが可能となります。
工事完了後の振り返り
工事完了後の振り返りでは、見積り原価・実行予算・実際原価を比較し、予算と実績の差異が生じた場合はその要因を明確にし、次回以降の見積りや実行予算へ反映させます。原価管理システムは、過去のプロジェクトの原価情報を分析し、パターンや傾向を見出すことで、将来の工事における原価予測の精度を高めることに貢献します。工事原価管理を続けることで、工事における利益が明確になるデータを収集・集約でき、将来的な経営判断の重要な材料や基準になりえます。
現場レベルでのコスト管理
現場でできるコスト削減を実現するためには、「現状の把握・見直し」と「業務の効率化」が非常に重要になります。現場レベルでのコスト管理は、材料費や人件費を含めたコストが工事価格の9割以上を占めると言われる建設業において、費用削減の鍵といえます。材料費・外注費の視える化
建設業では、材料費や設備製品がコストの大部分を占めるため、これらを見直すことが大きなコスト削減につながります。原価管理システムは、データの一元管理により、全体的な原価の視える化と分析を可能にします。資材調達においては、システムを用いて複数の供給業者の価格を比較検討することで、最も経済的な選択を行うことができます。また、外注費は建設業会計において原価要素の一つであり、労務外注費(従業員への賃金と実質変わらないもの)と外注費(業務委託で一人親方などに支払われる費用)を明確に区別し、視える化することが重要です。
出来高データの活用
出来高データ(工事の進捗状況)を活用することは、工程管理と原価管理の連携に役立ちます。原価管理システムは、プロジェクトの進捗状況と原価の関連性を把握する機能を有しており、工事の進捗に合わせて予算と実績を比較し、費用の適正化を図ることが可能です。進捗状況をリアルタイムで管理することで、予算オーバーを未然に防ぐこともできます。出来高に基づいて売上や原価を分割計上する「工事進行基準」も、建設業において収益や費用を明確にするために用いられる基準です。
3-3 労務費の把握
労務費は、原価管理システムで収集・分析・管理される原価情報の一つであり、工事現場で労働する人件費を指します。労務費を含めたコストが工事価格の9割以上を占める建設業において、業務の効率化は人件費削減に繋がります。日報の入力時に原価や労務費を反映させたい場合は、日報管理機能のあるシステムを選ぶことで、労務費の正確な把握と管理が可能になります。また、ITツールを活用して業務効率化を実現できれば、工事や関連業務に必要な人材や時間を少なくすることができ、人件費の節約につながります。
工程とコストの紐づけ
効率的な工程管理は、コスト削減に直結します。工程管理を徹底し、遅延の兆候を早期に発見することで、追加費用の発生を防ぐことができます。原価管理システムは、プロジェクトの進捗状況と原価の関連性を把握する機能を有しており、工程とコストを紐づけて管理することを支援します。建築現場の効率と品質は、段取りで8割決まるとされているため、適切な準備と管理(工程とコストの紐づけを含む)が重要です。
経営・事務側の管理ポイント
建設業のコスト管理の方法を経営的な視点から見ると、単なる原価計算に留まらず、事業の収益性を向上させるための戦略的なツールとなります。事務側の積極的なDX化・IT化も、大きなコストカットを実現する鍵です。工事別損益の比較
原価管理システムを活用することで、建設プロジェクトの損益分岐点を正確に把握できます。工事原価管理で事前に支出を管理しておけば、どの程度の利益が見込まれるか粗利益が算出可能です。この情報を基に、受注する工事の規模や価格設定を最適化し、適切な受注計画の立案が可能となります。工事ごとの採算性を把握し、経営全体の利益改善につなげるためにも、見積り、実行予算、実際原価の流れを明確に区分し、それぞれの数値を定期的に比較・検証することが重要です。
横断的な原価分析
原価管理システムは、建設プロジェクトにおける原価情報を収集、分析、管理し、費用の適正化を図る戦略的なツールです。システムによるデータの一元管理により、複数の現場における原価情報を統合し、全体的な原価分析を行うことができます。蓄積されたデータを分析することで、生産性の向上や業務の効率化に役立てることができ、資材の調達方法や施工手順の見直しなど、費用削減の余地を見つけ出すことができます。この横断的な原価分析は、データに基づく経営判断を実現し、事業の発展につなげるために重要です。
予測原価を用いた先読み管理
原価管理システムが提供する高度なデータ分析や予測機能は、建設業の収益性と競争力を高める重要な要素です。原価管理のデータを分析することで、資材価格の高騰や工期遅延といった将来のリスクを予想し、適切な判断を下すことができます。工事の進捗状況や原価の推移を適切に把握することで、問題が発生した場合にも速やかに対応策を講じることができ、原価管理はリスクの予防と対応に重要な役割を果たします。この先読み管理は、着工後の赤字を回避するためにも有効です。
収支レポートの活用
原価管理システムは、データに基づく意思決定を支援し、建設プロジェクトの成功に貢献します。システムが提供する分析レポートや予測機能を活用することで、経営者や現場責任者がリアルタイムで情報を把握し、迅速な意思決定を行うことを支援します。工事台帳をベースにした「要 〜KANAME〜」のような利益管理ソフトは、経営分析、生産性向上、利益拡大を目的に、すべての現場の把握を支援します。収支レポートの活用により、精度の高い実行予算書をベースにした予算と実績の差異管理は、リアルなコストの把握を実現させ、迅速で速効性のある調整を可能にして適正な利益確保に繋がります。
ありがちなコスト管理の失敗例
工事原価管理は勘定項目が複雑で、売上を計上するタイミングも難しいため、建設業ならではの悩みが失敗例に直結しています。ここでは、建設業のコスト管理の方法におけるありがちな失敗例を解説します。更新遅れによる誤差
従来の管理方法、特にエクセルや紙ベースでの管理では、情報の遅れや属人化を招きがちであり、これが赤字工事の温床となりやすいです。工事原価管理は、工事の進行にあわせて費用を工事原価台帳などに記録しますが、現場からのデータ収集が遅れると、実行予算と実績との差異を早期に発見できず、速やかに調整を開始することができません。原価管理システムは、突出した異常値の発見をリアルタイムで行い、工事進捗に合わせた即時対処を可能にします。管理手法のバラつき
管理手法のバラつきは、管理方法の属人化によって引き起こされます。特に各現場で異なるフォーマットのデータを使用している場合、経理部門が集約する際に、データに不整合が生じたり、ヒューマンエラーが発生する可能性が高くなります。システムを導入することで、複雑な原価計算や大量の入力作業を自動処理し、手作業を最小限に抑えることができ、業務の標準化と属人化の防止につながります。実績データの不整合
実績データの不整合は、手作業による大量のデータ入力作業に伴う入力ミスのリスク や、現場ごとの管理手法のバラつき によって生じます。建設業においては、労務費と外注費の振り分けの判断が曖昧で、この線引きに悩む企業も少なくありません。実績データの不整合を避けるためには、データ入力の効率化と自動化が有効であり、原価管理システムによって入力の重複を避け、情報の一元管理を実現することが推奨されます。
改善が進まない体制
建設業では、中小企業における営業利益率が1〜4%程度と低く、原価や販管費などのコストが9割以上を占めているといわれています。適正な利益を確保するためには原価管理を徹底し、無駄な費用を削減する必要があります。しかし、工事完了後や決算時に無駄なコストや赤字を確認できても、即時的な対策で対処することはできません。改善を進めるためには、工事原価の詳細をリアルタイムで把握・調整し、過去のデータから分析して将来的に利益の少ない事業や工事を事前に撤退できるなど、経営判断の重要な材料を収集し続ける体制が不可欠です。
「要 〜KANAME〜」でコスト管理を効率化
原価管理ツール「要 〜KANAME〜」は、工事台帳をベースにした建設業向け利益管理ソフトです。原価管理を通じて建設プロジェクトの費用削減を実現し、利益を確保するために重要となる、原価情報の視える化と意思決定の迅速化を支援します。「要 〜KANAME〜」を活用することで、建設業者はデータに基づく経営判断を実現し、事業の発展につなげることができます。






