- 2025年12月01日
官積算とは?建設業界での意味や基本をわかりやすく解説
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官積算とは、国や地方公共団体などが発注する公共工事の予定価格を算出する作業のことです。
建設業界において非常に重要な業務であり、そのプロセスやルールは法律や基準で厳密に定められています。
簡単に説明すると、工事に必要な材料費や人件費などを一つひとつ積み上げて、工事全体の費用がいくらになるかを計算する手続きです。
この記事では、官積算の基本的な意味から、民間積算との違い、具体的な計算方法までをわかりやすく解説します。
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官積算とは?公共工事の予定価格を算出する重要なプロセス
官積算は、国や都道府県、市町村といった公的機関が発注する建築や土木などの公共工事において、その工事費用がいくらになるかを事前に計算する作業を指します。この計算によって算出された金額が、入札における「予定価格」の基礎となります。
発注機関は、この予定価格を基準として入札参加者の提示金額を比較し、契約相手を決定します。
官積算は、税金で賄われる公共工事の費用が適正であることを示し、公平な競争を促すための根幹をなす、極めて重要なプロセスです。
官積算の3つの特徴
官積算には、民間積算とは異なる3つの大きな特徴があります。これらの特徴は、公共工事の透明性や公平性を確保するために設けられており、積算業務を進める上で理解しておくことが重要です。具体的には、根拠資料が明確に定められている点、工種ごとの分類が細かい点、そして共通仮設費や現場管理費といった経費率が規定されている点が挙げられます。
これらの特徴について、さらに詳しく解説します。
特徴1:根拠資料が明確に定められている
官積算では、国や各地方整備局によって定められた「積算基準」や「歩掛(ぶがかり)」といった根拠資料に基づいて費用が算出されます。これは、どの企業が積算しても同じ結果になるように、計算の根拠となる基準や単価が明確に定められていることを意味します。そのため、恣意的(しいてき)な判断による費用の変動を防ぎ、工事費の透明性と公平性を確保できるのが特徴です。
この明確な基準があることで、発注者と受注者の間で共通の理解が得られ、円滑なプロジェクト推進にも繋がります。
特徴2:工種ごとの分類が細かい
官積算の大きな特徴として、工種ごとの分類が非常に細かく設定されている点が挙げられます。これは、工事を構成する様々な作業や材料一つひとつについて、詳細な基準や単価が定められていることを意味しています。例えば、同じ「コンクリート工事」であっても、構造物の種類や施工場所、使用する重機の有無などによって細かく分類され、それぞれに適用される歩掛や単価が異なります。この詳細な分類により、積算の根拠がより明確になり、工事費の算出における客観性と透明性が高まります。
特徴3:経費率(共通仮設費・現場管理費)が規定されている
官積算では、直接工事費だけでなく、工事を円滑に進めるために必要な共通仮設費や現場管理費といった「間接工事費」についても、その算出方法や率が積算基準によって明確に規定されています。共通仮設費は、現場事務所の設置や足場、仮設通路の費用など、工事全体で共通して必要となる仮設的な費用を指します。
一方、現場管理費は、現場監督の人件費や通信費、安全対策費など、現場を運営・管理するためにかかる費用です。
これらの費用も、直接工事費に対する割合(%)などで算出されるため、積算の透明性が確保されています。
官積算が公共工事で果たす3つの重要な役割
官積算は、工事費用を計算するだけの作業ではありません。公共工事の根幹を支えるため、主に3つの重要な役割を担っています。
第一に、財源である税金の適正な使用を担保すること、第二に、入札に参加する企業間の公正な競争を確保すること、そして第三に、完成する建造物の品質を一定水準以上に保つことです。
これらの役割は、公共事業の透明性や信頼性を維持する上で不可欠であり、官積算が厳格なルールに基づいて行われる理由にもなっています。
役割1:税金の公平で適正な使用を担保する
公共工事の費用は、国民や住民から集められた税金によって賄われています。そのため、工事価格が不当に高く設定されることは、税金の無駄遣いに直結しかねません。
官積算は、国が定めた統一的な基準に基づいて客観的に工事費を算出することで、価格の妥当性を担保します。
これにより、特定の業者に有利な価格設定が行われるといった不正を防ぎ、発注者が適正な価格で工事を発注できるようになります。
このプロセスは、税金の使途に対する国民への説明責任を果たす上でも、非常に重要な役割を担っています。
役割2:入札における公正な競争環境を確保する
官積算によって算出された予定価格は、入札に参加する建設会社にとって、入札額を決定する上での重要な指標となります。この客観的な基準価格が存在することで、各企業は共通の土俵で技術力や経営努力を競い合うことが可能です。
もし基準がなければ、不当に安い価格で入札する「ダンピング」が横行し、業界全体の健全な発展が阻害される恐れがあります。
官積算は、価格競争が過熱しすぎるのを防ぎ、全ての参加者に対して公正な競争の機会を提供することで、建設市場の秩序を維持する機能を果たします。
役割3:工事の品質を一定水準以上に保つ
極端に安い価格で工事を落札した場合、利益を確保するために必要な材料費や人件費を削らざるを得ない状況に陥ることがあります。これは、手抜き工事や労働者への不当なしわ寄せにつながり、結果として構造物の品質低下や安全性の欠如を招く危険性をはらんでいます。
官積算では、工事の品質を確保するために必要な費用が標準的な労務費や材料費に基づいて適正に計上されます。
そのため、官積算に基づく予定価格は、工事の品質を一定水準以上に保つための最低ラインとしても機能し、公共インフラの安全性と信頼性を守ることに貢献します。
官積算と民間積算の決定的な違いを3つの観点で比較
工事費を算出するという点では共通している官積算と民間積算ですが、その目的や基準には明確な違いが存在します。これらの違いを理解することは、それぞれの積算業務の特性を把握する上で欠かせません。
主な違いは、「目的」「基準」「単価」の3つの観点から整理できます。
官積算が公共性と公平性を重視するのに対し、民間積算は企業の利益追求や市場での競争力がより強く意識される傾向にあります。
ここでは、それぞれの観点から両者の決定的な違いを比較します。
目的の違い:適正な価格設定か利益の確保か
官積算の最大の目的は、公共工事にかかる費用を客観的かつ公平に算出し、税金の使用における妥当性を示す「適正な予定価格」を設定することにあります。特定の企業の利益を優先するのではなく、あくまでも中立的な立場で、その工事に要する標準的な費用を導き出すことが求められます。
一方、民間積算の目的は、発注者側と受注者側で異なります。
発注者は予算内で品質の高い建物を建てることを目指し、受注者である建設会社は、他社との競争に勝ちつつ、自社の利益を最大限に確保できるような見積価格を提示することを目的とします。
基準の違い:国が定めた統一ルールか企業独自の基準か
官積算は、国土交通省が定める「公共建築工事積算基準」や各地方整備局が公表する基準など、全国で統一されたルールに則って行われます。これにより、発注機関や地域によって計算結果に大きな差が生じることなく、公平性と透明性が保たれます。
どの担当者が計算しても、同じ設計図書であれば、ほぼ同じ結果になる仕組みです。
これに対し、民間積算には統一されたルールは存在せず、各企業が過去の工事実績や独自のノウハウに基づいて蓄積したデータや基準を使用するのが一般的です。
そのため、同じ工事であっても、企業によって算出される金額は大きく異なる場合があります。
単価の違い:公表されている歩掛か市場の実勢価格か
官積算で用いられる材料や労務の単価は、主に国が調査して公表する価格データに基づきます。例えば、作業員一人当たりの人件費は「公共工事設計労務単価」として毎年発表され、各種資材の価格も「建設物価」や「積算資料」といった刊行物に掲載された公表価格が使用されます。
一方、民間積算では、仕入れ先との関係性や購入量、時期などによって変動する「市場の実勢価格」が重視されます。
そのため、民間企業は常に市場の動向を注視し、より有利な条件で資材を調達するための交渉力が単価に反映されることになります。
官積算はどのように行われる?基本的な4つのステップを解説
官積算は、定められたルールと手順に沿って、体系的に進められます。この一連の計算方法を理解することで、積算業務の全体像を把握することが可能です。
具体的には、まず設計図書から工事に必要な数量を全て拾い出す作業から始まります。
次に、その数量に定められた単価を適用して費用を算出し、それらを直接工事費と間接工事費に分類して積み上げます。
最後に、本社経費なども含めた全体の工事価格を算出するという流れが一般的です。
ここでは、その基本的な4つのステップを順に解説します。
ステップ1:設計図書から必要な数量を正確に拾い出す
積算業務の最初のステップは、発注者から提示される設計図や仕様書などの「設計図書」を詳細に読み解き、工事に必要な資材の量や作業量をすべて拾い出す「数量拾い出し」です。例えば、コンクリートの体積(㎥)、鉄筋の重量(t)、壁の面積(㎡)など、各項目を単位とともに正確にリストアップしていきます。
この数量は、後続のすべての計算の基礎となるため、ここで見落としや間違いがあると、最終的な工事価格に大きな誤差が生じてしまいます。
そのため、図面を正確に理解する読解力と、細かな部分まで見逃さない注意力が必要不可欠な工程です。
ステップ2:材料費や労務費などの単価を調査して適用する
数量の拾い出しが完了したら、次に各数量に対応する単価を乗じて、それぞれの費用を算出します。官積算では、使用する単価は原則として公表されているものを用います。
材料の単価は「建設物価」や「積算資料」といった専門誌に掲載されている価格を、作業員の人件費にあたる労務費は国土交通省が毎年発表する「公共工事設計労務単価」を適用します。
また、建設機械の使用料なども同様に基準に基づいた単価を適用し、拾い出した全ての項目について費用を計算していく、地道で正確性が求められる作業です。
ステップ3:直接工事費と間接工事費をそれぞれ計算する
ステップ2で算出した個別の費用は、「直接工事費」と「間接工事費」の2つに大別して集計されます。直接工事費とは、工事対象物を造るために直接必要となる費用で、材料費、労務費、直接経費(機械経費など)の合計です。
一方、間接工事費は、工事を円滑に進めるための準備や後片付け、現場の管理などに要する費用を指し、共通仮設費や現場管理費などが含まれます。
間接工事費は、積算基準に定められた計算式や率(%)を用いて、直接工事費を基に算出されるのが一般的です。
ステップ4:一般管理費などを加えて全体の工事価格を算出する
直接工事費と間接工事費を合計したものを「工事原価」と呼びます。最後に、この工事原価に「一般管理費」などを加えて、全体の工事価格を算出します。
一般管理費とは、工事を施工する企業の存続に必要な経費のことで、本社の役員や事務員の給料、事務所の家賃、福利厚生費などが該当します。
これも積算基準に定められた率を用いて工事原価から算出されます。
これら全ての費用の和が最終的な「(純)工事価格」となり、発注者における予定価格の基となる金額が確定します。
官積算が難しいと言われる理由
官積算は、公共工事の透明性と公平性を保つ上で不可欠なプロセスですが、その複雑さゆえに難しいと言われることが少なくありません。まず、国や地方公共団体が定める積算基準や歩掛が頻繁に改定される点が挙げられます。例えば、国土交通省の土木工事・業務の積算基準は、働き方改革や現場の実態に合わせて毎年見直しが行われています。このため、常に最新の基準を把握し、適用していく必要があります。
次に、工種ごとの分類が非常に細かく、それぞれの数量拾い出しや単価適用に高い専門知識と正確性が求められることも難しさの一因です。
土木工事では、全く同じ条件で行われることがないため、個別の工事ごとに詳細な積算が求められます。膨大な設計図書を正確に読み解き、適切な単価(材料費、労務費など)を適用するには、建築や土木の専門知識だけでなく、高度な計算能力も不可欠です。
さらに、積算業務は、入札期限という厳しい納期の中で行われることが多く、高いプレッシャーと責任が伴います。もし積算に誤りがあれば、適正な予定価格が設定されず、企業の利益を損なうだけでなく、公共工事の品質低下や公正な競争が阻害される可能性もあります。
また、建設業界全体の人手不足も、積算業務を難しくしている要因の一つです。熟練の積算技術者が不足している中で、若手人材の育成が急務となっています。
これらの要因が重なり、官積算は専門性と経験が求められる難しい業務だと認識されています。
官積算の精度を高めるために必要な知識とスキル
官積算の精度を高めるためには、多岐にわたる知識とスキルが求められます。まず、設計図書を正確に読み解き、必要な数量を拾い出すための建築や土木に関する専門知識が不可欠です。
また、毎年のように改定される公共工事積算基準や公共工事設計労務単価といった最新のルールや公定単価を常に把握しておく必要があります。
さらに、近年では専用の積算ソフトを活用することが一般的であるため、これを効率的に操作できるITスキルも重要になります。
これらの知識に加えて、過去の類似案件の経験を応用したり、仕様書から読み取れない部分を推測したりする実務的な判断力も、精度の高い積算を行う上で大切です。
まとめ
官積算は、国や地方公共団体が発注する公共工事の予定価格を、定められた統一基準に基づいて算出する重要なプロセスです。その役割は、単なる費用計算にとどまらず、税金の適正な執行の担保、入札における公正な競争環境の確保、そして工事品質の維持にまで及びます。
企業の利益確保を目的とする民間積算とは、その目的や基準、用いる単価において明確な違いがあります。
設計図書からの数量拾い出しに始まり、単価の適用、各種経費の積み上げといった一連のステップを経て工事価格は算出され、その精度を維持するためには専門知識と継続的な学習が不可欠です。
官積算の精度を高めるには「情報の一元管理」が欠かせません
官積算では、図面や材料の数量だけでなく、労務費・経費・原価といった幅広い情報を整理し、根拠を揃えて計算することが求められます。しかし、エクセルや紙で管理しているとデータが分散しやすく、積算内容の整合性を確認するにも時間がかかることがあります。こうした状態を改善したい方には、
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